イヌワシが危ない! 2024


■伊吹山でのイヌワシの繁殖失敗

 昨年(2023年)、調査会社イーグレットオフィスが米原市と連携し、遠隔操作による望遠カメラで貴重なイヌワシの営巣をライブ配信し、イヌワシの子育てを誰でもが見守り保護する意識を高めようとする取り組みを行いました。


 ライブ配信を見た多くの視聴者がそのヒナに釘付けとなり、その成長を見守り、応援をしていました。ところが、5月までは比較的順調に親による給餌がされていましたが、徐々に給餌回数が減りだしました。

 7月下旬には10日以上エサが運ばれることがなくなり、巣から落下してしまいました(私の目には自分から巣立とうとしたように見えた)。直後にイーグレットオフィスとその協力者に救助されましたが、すでに飢餓により極限まで疲弊して消化機能にも障害が起こり、残念ながら看護の甲斐なく天国へ旅立ちました。


■繁殖失敗の原因の考察

 イーグレットオフィスによると、伊吹山地では手入れされない杉などの人工林の割合が高いこと、以前からノウサギが少なくなっていること、さらに夏の異常な高温で動物の日中での行動が制限されたことなどを理由に挙げられています。私はそれに加えて、増えすぎたニホンジカによる下層植生への捕食圧が2014年頃から拡大し、2020年頃から一部のシカが嫌う不嗜好植物を除き下層植生が壊滅してしまったことが理由と考えています。シカが増えすぎた理由は温暖化で冬の積雪が減り、生存しやすくなったと考えられます。

 その結果、生態系のバランスが崩れ、餌となるヘビや小型哺乳類の個体数が減ったと考えています。生態系ピラミッドの底辺を支える生産者である草本がなくなれば、それに支えられている一次消費者以上の生きものに影響を与えないはずがないと考えるからです。

 そのように食べ物が少なくなった後でもニホンジカは伊吹山から減らないのは非常に不思議です。堅果や落ち葉のほか、最近ではイブキトリカブトのように本来不嗜好の植物も食べるようになっており、その適応力と執着心には驚くばかりです。


■最悪の営巣場所

 このような中、今年、伊吹山ドライブウェイ(以下DW)の冬期休業中に、なんとDWの直下にイヌワシが営巣してしまいました。ここは、かねてからイヌワシ狙いのカメラマンが大勢、ローカルルールを無視し、歩行禁止の自動車動を歩き、ガードレールの外に出て三脚を立て、チチブリンドウなど希少植物が生育していた場所を裸地化させたその直下です。チチブリンドウは石灰岩地に生育し、伊吹山が西限の分布上重要な種です。

■イヌワシの営巣を見守るため

 このような最悪の状況からイヌワシを守ろうと、米原市とDW運営会社がDWの開通直前に巣の上方のガードレール沿い約600メートルに渡って立入を阻止するため簡易な柵を設置しました。

 ところが、DW開通の2日前には、山小屋管理人と、岐阜県側の笹又からの登山道をわざわざ登ってきたカメラマンの合計4人が巣の上に立ち長時間にわたり撮影したことが発覚しました。関係者の注意にも従わなかったそうです。これでは柵がなければ中に入ろうとする、伊吹山のシカと同じではないでしょうか。

(参考)イーグレットオフィス ブログ


 伊吹山の山小屋でつくる山小屋組合は、伊吹山の自然を守るべき「伊吹山を守る自然再生協議会」のメンバーです。これは協議会や、伊吹山の自然をなんとか守ろうとしてきた人々への、非常に重要な違背行為です。協議会でも追求すべき事態であると思います。


■柵がない所ではやはり

 この情報を知り4月20日のDW開通時に様子を見に行きました。さすがに柵から外へでる人はいませんでしたが、その手前の柵のない場所2カ所ではガードレールの外に出て撮影しているカメラマンが約10人ほどいました。

 先の4人や、これらカメラマンの多くがおそらく常連。自動車道歩行が禁止であることやガードレールの外に出てはいけないことは知っているはず。

 まさに、網の穴を広げ隙を見て植生保護区に入ろうとするシカと同じ行為。この人たちは何のために撮影しているのでしょうか。伊吹山のイヌワシがどうなろうと一時的に立派な写真を撮りたいだけの様に思えます。希少植物を踏みつけてもなんとも思わないのでしょうか

(参考)

YouTube動画 伊吹山のイヌワシがあぶない!


■伊吹山の生態系回復への考えとイヌワシを愛する方々へのお願い

 現在伊吹山ではここ数年のうちに増えすぎた鹿により下層植生が破壊され、土砂崩れが起きるなど、十数年前には考えられなかったことが進行しています。

 ようやくですが行政もこれまで以上に植生回復と登山道修復に力をいれるようになりました。その中で我々にできることはルールを守りながら、入山協力金を支払い(強制ではありません)伊吹山の現状と魅力知り楽しむことが支援につながる第一歩と考えています。

 土砂崩れを契機に行政が本格的に対策に踏み切った今年は伊吹山の自然回復への正念場です。イヌワシカメラマンの方々にもぜひともことの重大さを認識いただきご協力をお願いします。

 ローカルルールを守り、少し離れた位置でイヌワシから近づいてくれるまで待ちましょう。


  2024年5月1日 記(適宜追記修正)


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