わずか10年で劣化した伊吹山の自然


■シカの食害による植生の変化をわかりやすく表現するにはやはり、時系列で写真を並べるのが良いと思い並べてみました。本来華やかな7月と8月の写真を使いました(平成22年→令和2年)。

■南斜面
●平成22年
 この頃は全面緑に覆われている。



●平成26年
 まだ、植生は豊かだけど、草丈が低くなっているように感じ始めた頃。隣の鈴鹿山脈霊仙では、平成24年にはシカの捕食により頂上台地の笹原が消えていた。



●平成28年
 緑が多いように見えるけれど、シカの不嗜好植物のコクサギが目立つ。6合目から7合目は同じくシカの不嗜好植物のイブキガラシが蔓延りつつある。高度を上げるほど裸地が目立つようになった。イブキガラシはアブラナのように種を弾き飛ばすので広がるのが早いのだろう。コクサギは低木なので広がらない。



●平成29年
 コクサギの他は薄茶色の花が終り枯れ始めたイブキガラシで、季節外れの殺風景な姿に。後年この薄茶色の場所が裸地になり、さらに表土が流れ始めることになる。



●平成30年
 5合目まで草の丈が明らかに低くなり単相化している。6合目より上で目立つのはコクサギと枯れたイブキガラシのみ。



●令和元年
 8合目から上部はコブ状にシカが食べない草が残るだけとなった。5合目も裸地化が進む。歩きやすくなって、イヌワシの餌場である西尾根に侵入するイヌワシカメラマンも現れ始めた(はじめの写真の尾根上の左端)。草原がなくなった上に普段餌場となっている場所に長時間人が侵入すると、イヌワシにとっても驚異になるはず。シカの食害に、こんな間接効果(弊害)があるとは思わなかった。



●令和2年
 イブキガラシさえも消えた。シカは餌がなくなるとそれまで食べなかった餌も食べるようになる。コクサギだけが残っている。伊吹もぐさの原料のヨモギは見当たらない。前年までイブキガラシが生えていた斜面では、7月の長雨で表土も流され始めた。いよいよ末期症状。おそらくシカの餌も減って今後どうなるのか。より頂上へ執着し出すのではないか?



■尾根
●平成22年
 この頃は崖以外、緑で覆われていた。



●平成26年
 まだ緑に覆われている。



●平成28年
 西尾根の斜面ではいち早く裸地化している。



●平成29年
 それでもまだ、緑が残っているように見えるが草丈は低い



●平成30年
 よく見るとガレ場の上は芝生のよう。



●令和元年
 動物が隠れる場所もなくなってきた。



●令和2年
 尾根も石灰岩が露出している。



■9合目付近
●平成22年
 一面の緑



●平成28年
すでに裸地が目立つ。



●平成30年
 ハゲ山のよう。霊仙の状態に近づいてきた。



●令和2年
 ほぼ裸地となってしまった。



■頂上台地中央
●平成26年
 この年からシカ防護柵が設置されるが、まだ不完全。中央でも動物が荒らした跡がある。イノシシかもしれない。シモツケソウがかろうじて群落を作っている。



●平成27年



●平成28年
 この年には、頂上台地を西、中央、東の3区画に分けて、それぞれのほぼ全域を囲い込む「集水域防護」というニホンジカに入れない場所と学習させる防護柵が完成。しかし、すべてのシカを追い出せていないこと(雪に備えて秋にいったん網を下ろし、春に網をあげる必要。特に東エリアでは広い灌木帯というシカの隠場があり、網上げの時に完全に追い出しきれない)、後に外から執拗に網をかじって穴を開けたり、網の上に乗りかかり体重で押し下げたり、角や頭でペグごと網の下部を持ち上げたりすることがわかった。この防護柵は京大芦生演習林で実績のあるやり方で、伊吹山のシカがここまで執拗に中に入ろうとするとは、指導にあたられた京大の高柳先生も予想をされていなかったと、「伊吹山を守る自然再生協議会」の方から聞いた。



●平成29年
 それでも、防護柵の効果が現れたようで、少し華やかさが戻ってきた。



●平成30年
 昨年よりは草丈が低いように感じるがまだ華やかさがある。



●令和元年
 この年が頂上台地では大きな転換点。中央と東エリアでは、網上げが進まず、網を上げたところでも破れてボロボロだった。また、東エリアにあった小区画(スポット防護区)4つのうち、鉄柵以外の区画の網が下ろされたままとなり、前年までこの3カ所すべてにかろうじて残っていたニッコウキスゲも姿を消してしまった。オオバギボウシのようにどこかの崖っぷちに残っていればいいのだけれど、まったく見つからなくなってしまった。中央ではわずかにメタカラコウとイブキジャコウソウが咲いているだけで、ほとんど花を見つけられなくなった。徐々に網の張り替えがされ始めたが、東エリアでは秋まで間に合わなかった。網がボロボロになる原因に網下ろしした後も、なぜか網をかじるシカがいると網を補修しておられる「伊吹山を守る自然再生協議会」の方が言っておられた(R2年)。



●令和2年
 この年、春の間に昨年から続いていた網の張り替えがほぼ終わった(下部は補強されていた)。花はほとんどなく、草丈も低い。網の穴をロックタイで補修している私を不審者だと思って怒ってこられた、ご来光を見るため昨日から滞在されていた登山者によると、夜中に中央にもシカがいたらしい。さらに、ご来光時に人がたくさん規制線を無視して、草を踏んでおり憤慨して注意されていたとのこと。そのため不審な行動に敏感になっていたとのこと。今となってはこういった方の存在がありがたい。。



■頂上台地「シカ牧場」
●平成26年
 東エリアでは、侵入したシカは夜中には広い範囲で行動しているが、昼間に集まる場所があって、まるでシカの牧場のように見えることから「シカ牧場」と名付けた。この年はまだここでも青々としている。



●平成27年
 草丈が低くなっているのがわかる。



●平成29年
 さらに荒れが目立ってきた。



●平成30年
 裸地化が進む。



●令和元年



●令和2年
 裸地寸前になってしまった。不嗜好のイブキトリカブトの葉までかじるようになってきた。春に確認したところ5頭程度であったものが、夏までに18頭程度に増えていた。東エリアだけでなく中央でも確認できた。どこかから、侵入しているはず。

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■こうして大切な伊吹山がシカに食い潰されていく姿を見るのがとてもつらくなる。もう登るのはやめようかと思ってしまう。しかし、せめて頂上台地だけでも守れるよう、協力金を納めつつ、現状をお伝えできればと思う。豊かな植生に支えられているのは、貴重な植物だけでなく、それを食べる陸生貝類であったり、さらにそれを餌とするヒメボタル。そのほか、様々な草食動物やそれを餌とするイヌワシといった生態系を構成するすべての動植物。それらを観察してワクワクしながら登っていた頃を取り戻したい



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